昔ながらの愛すべき喫茶店
昔ながらの洋食屋や喫茶店というものが、どの街にもひとつならず存在している。
一体いつの時代から営業しているのかすら定かではない、時間の流れから取り残されたような外観をして。
いつか流行ったと思われる、ステンドグラス風のシールを窓ガラスに貼っている。
絶対に実物と違うつややかなロウ細工の食品サンプルが、年季の入ったディスプレイのなかに収まっている。
ソファが赤いビロード張りだ。
そんな愛すべき特徴を持った名店の数々は、地元に根付きながら今日も営業を続けている。
私が大学生だった時分に愛していた、大学のごく近くにある喫茶店も例に漏れずこんな店だった。
私の大学は閑静な住宅街で有名な、割りにというか結構家賃の高い一帯にあった。
そのくせ老舗の汚いお店や、絶対にチェーンではないなというような小さなお店なんかもたくさんあって、古きと新しきが混じって絶妙な空気感を醸し出していた。
そんな中にあっても全く目立たない、あるのかないのか分からない、そんなお店がかの喫茶店であった。
全国規模で拡散しているコーヒー店の入っているビル横の、本当に人一人通るのがやっとという入口の階段を下りて地下に行くと、まさに地下室のような陰気な雰囲気の店が出てくる。
マスターも口数の少ないまさにマスター独特の風貌をして、本当に私は学生運動の盛んであった時代にタイムスリップしてしまったのではないかと思う程、時代感が喪失していた。
看板メニューは、コーヒーの上にソフトクリームをたっぷり乗せたものに、チョコレートのカラースプレーを振りかけて、懐かしいウエハースを挿したパフェだ。
かなり大層な名前がついているメニューだが、味はあくまでコーヒーとソフトクリームである。
美味しいと思ったことはかつて一度もない。
それなのに、なぜか愛してやまない。
それは何も私に限ったことではなく、同じ学生達もみなこの店のお世話になっているから不思議なものである。
卒業して以来すっかり足が遠のいてしまっているが、今でも学生に愛されているものと信じている。