モヒートにまつわる記憶
モヒート、は人気のカクテルである。
サングリアと同じように、屋外のイベントでよく出されるやつだ。
ミントがかなり効いていて、非常にさっぱりとした飲み物だ。
でも、私は嫌いだ。
味はどうでもいい。
それが嫌いな理由ではない。
嫌いなのは、ただ単にいい思い出がないからである。
ちなみに、モヒートが悪いのでは、きっとない。
私が単純に悪かったのだ。
私は自分で言うのもなんだけれども、酒癖が悪い。
大して強くもないのに、調子にすぐ乗って飲みすぎるというのが全ての原因である。
大抵の飲み会で記憶をなくしてしまうのだ。
モヒートに付きまとっている思い出はいくつかあるけれど、その全てでやっぱり私はやらかしている。
所々しか記憶はないのだが。
まず一つは終電を逃したこと。
これはまあまだ良いほうだ。
ひどいのは、朝起きたらおでこにたんこぶができていたこと。
そして、前歯がなかったこと。
かすかな記憶の断片を繋ぎ合わせてみると、ある日の私はちゃんと終電に間に合う電車に乗っていたようだ。
それを途中で乗換えを忘れ、終点まで行っていた。
その途中、どうやら電車の中で倒れたらしい。
おでこにたんこぶができて、なおかつ前歯が折れたということは、おそらく電車のドア横にあるような金属のバーに、衝撃的な勢いでぶつかって倒れたのであろう。
その時おでこと口を一緒に打ち付けたのだとすると非常に合点がいく。
どうやって起き上がったのかは知らないが、思い出せる記憶の中では私はいすに座っている。
でも、どうやったにしても絶対に恥ずかしい状態に違いないので、出来るだけ思い出さないように努めている。
とりあえず、朝起きて口の中にざりざりしたものがあって、せんべいを食べたのかと疑問を抱いたが、そのまま飲み込んでしまって、しばらくして歯を磨きに行ったときに歯がないことに気づくこと。
これに優る衝撃は、今まで味わったことがない、というのだけが鮮明な印象である。